前期に論文の読み方・書き方を初めてきちんと習った結果「もっと早く知りたかった」と繰り返すだけの憐れな妖怪になってしまいました。これ以上妖怪を生み出さないために記事にします。
論文の読み方を学ぶメリット
- 論文には「しきたり」「作法」があり、それらを知ると論文を読むときの疲れが減る
- アブストを読むよりも本文の大事なところを読んだ方がよっぽどわかりやすいことも少なくない
- 論文を書くために必要
B4 の配属直後、この分野の論文そんなにないから全部目を通しておいてね、と言われて絶望した記憶があります。結局読み切れなかったし。
アブストでつまずくことが多かったので、アブストってしんどくない???と先生に言われて首がもげるくらいうなずきました。もっと早く知りたかった。
論文の種類
論文探しのために知っておきたいおもな論文の種類をざっくりまとめます。
1.原著(Original)
2.総説
その研究分野における知見をざっとまとめたもの
-
Expert review
その領域をリードする科学者が専門家としての知見をまとめた総説
-
Systematic review
わたしはこの領域についてこういうことが知りたかったので、こういう方法で情報を集めました、という報告:情報収集手順の共有
- エキスパートでない人は主にsystematic review を書く
- 新しい分野の勉強を始めるときはsystematic review から見ていくと良い
論文の「正しさ」を支える二つの導出
知っていると論文を読むときの解像度が高まる知識です。
論文の肝となる導出はIntroduction とDiscussion の置かれるため、その二つは論文の中で最も重要です。
※この後、論文の体裁でやたらイントロと考察について詳しく書いているのもこの理由からです。
1.「既知→未知」の呈示段階『Quetion(s) は適切か?』
「So What?(だから何?)」に堪えうる問いを立てるところ
本当にその問いは証明されていないのか? それを調べることの論理的な意義が説明できるか?を述べている箇所が一つ目の導出です
イントロの引用のない箇所=導出
引用は「わたしの推論ではありませんよ」を示すためのもの
引用が無い場所というのは
- 通常は引用が必要ないくらい既知の事項(e.g. 寝不足の日は眠い)
- 既知の事項でもないのに引用が無い場所=著者の主張
言われてみれば当たり前なんですけど、引用のない箇所を意識してみたら問いが短時間で見つけられるようになってとても便利でした。もっと早く知りたかった。
2.「結果→考察」の段階『データは仮説を支持するか?』
得られたデータは本当にその仮説を証明しているのか?データが仮説を支持しているのはたまたまじゃないか? に対する答え
論文で最も大事な証明部分
Discussion の初っ端にあることが多いようです。
アブストよりこっち読んだ方がいいよってもっと早く教えてほしかったです先輩。
自分の周りだけかもしれませんが「時間が無いときはアブストと結論見とけ!」ってひとが多かった。わたしもその一人ですが…。
原著論文の体裁
読むにも書くにも知っておくと便利なので書いておきます。
研究発表や進捗報告にもこの体裁が使えるよ!
背景および目的 Introduction
▼ 背景 Background or Objective
現時点で何がわかっているのか?=既知(confirmed/tested)の状況をしっかりと整理する
たとえば
- これが必ずしも真実かはわからないけれど、繰り返し確かめられていて恐らく真実に近いだろう or コンセンサスと見ていいだろう
- わずかな回数しか確かめられていない、完全に確かめられているわけではないが、調べられている
といった情報を整理する
▼ 目的 (Aim)・未知/未解決 [Research Question(s)] ・仮説 (Hypothesis)
- イントロは既知→未知→リサーチクエスチョンを呈示しており、段々フォーカスが細くなる(漏斗型)
- 既知を良く知っている分野なら幅が広い内容は読み飛ばして漏斗の先から読んでもいい
- 一番細くなっているところに、その論文のResearch Quetion(s) が書いてあることが多い
▼ Research Quetion(s) のよくある見出し
- To test the hypothesis that ... we ...
- To determine whether ... we ...
- The purpose of this study was determine whether ...
方法 Materials and Methods
計画・材料・解析方法・その他条件を記載
- マテメソはレシピ本
- その通りにやれば追試ができる、できなければ書き手が悪い!
マテメソだけ見て再現実験できる論文なんかわたしは見たことないですけど 。ルール的にはそうらしいですね。
結果 Results
シンプルにあったことをそのまま書く
- データと仮説は対になっている必要がある
- 過去形で書かれる
- 計画(マテメソ)段階では実際何人集まったのか分からないはずなので、男女の割合や実施場所はリザルトに記載する
一報目を書いたときに、なんでマテメソに書いたことをリザルトで説明するんだろ~と思いながら、先行研究論文を見て見様見真似でサンプル採集地点など書いていましたが、計画と結果が異なる場合があるから、ってことだったんですね。
▼ Resultsでやってはいけないこと
- 解釈・議論をする
- ネガティブな結果を無視する
- 図表に示したデータも丁重に示す(図表に示したものは図表内で説明する!)
考察 Discussion (逆漏斗型)
内容が狭い範囲から広く開いていく、一般化していくターン
▼ Discussion の要素
1.Introduction のResearch Quetion(s) に対する答え
→ 論文を読み飛ばしたいときはConclution よりここを見る!
2.1の答えが当てはまる集団を指定
3.Results のどこからその答えが導かれるのかを説明
4.先行研究との比較・考えられるメカニズムを述べる
- 「それ、一般化できますか?」への答え
- 「ぼくたちはこう考えた。実際○○さんや△△さんも同じように考えている(先行研究)」
テーマに関連した知識が必要で、研究者の力量が問われるところらしい。
5.考えられる反論への反論を用意
- 仮説との齟齬や、先行研究との不一致の検討
- 最もよくある反論「材料(試験条件)がいまいちじゃないですか?」
- これに対する妥当な回答を準備しておくことで信憑性が増す
6.仮説と異なっていた結果について説明
7.新規性→論文の良さをアピール
8.先行研究と一致しない結果についての考察
9.限界(Limitations, Considerations)
まだこんなことは分かっていないよ、の部分を示していく
e.g. 日本ではこうだけどアメリカでは?イギリスでは?
9.この研究の意義
臨床的意義など、この研究によって得られた知見の意義を述べる
▼ Discussion でやってはいけないこと
- Introduction で書いたようなことを繰り返さない
- リザルトのサマリーから始めるのはあまり良くない(や、やりがち…)
- 新たな未知をここで書かない(Quetions はすべてintroduction へ)
結論 Conclusion
研究の意義などはここで書いてもいいかも。結論がないジャーナルもあるくらいなので、読むときに結論はそこまで重点置かなくていいっぽい。もっと早く知りたかった(n 回目)。
以上が一般的な論文の体裁になります。
そういうことも勉強していないと色々損するものなのだなぁ…。
「読み方=書き方」であり、「書き方=説得の仕方」
「読み方=書き方」であり、「書き方=説得の仕方」というのは先生が仰っていた言葉ですが、自分自身、M1~M2にかけて初めて論文を投稿してからやっと論文の読み方が少しわかるようになったこともあって、本当にその通りだなと思います。
体系的に書き方・読み方を勉強したことで、自分の中でバラバラに散らばっていた知識に骨組みが加わり、一つの形を成したような気がしてとても感動しました。
最初から骨組みがあればもっと苦労なく論文を読み書きしたり、より一層厚くて丈夫な肉(知識)を付けられたのかなぁと思いますが、それはこれからでも遅くはないのかなと思っていますし、そうであれと願っています。早く人間になりた~い。
おしまい