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【日記】カブトムシ採集の記録

夏といえば、で思い浮かぶものは色々あるが、カブトムシもそのひとつだろう。少なくともわたしにとってカブトムシ採集は恒例の夏イベントの一つだった。今でも父親に誘われれば一緒に出掛けていく。

 

新しく入った研究室の教授は虫捕りが好きで、先日、大学内のカブトムシが捕れるポイントに連れて行ってくれた。その道すがらカブトムシ採集の話を聞きながら、そういえばカブトムシ採集について人と話をするようになったのは今の研究室に入ってからだな、と思った。自分が女性だからかもしれないが、同年代の人とそういう話をした記憶はない。実際、自分と同年代で、自分でカブトムシが「いそうな森林に目星をつけ」「集まる木を同定し」「よく出没する場所や時間帯を把握し」「自分の手で採集を行う」ところまでやれる人というのはどのくらいいるんだろうか。その辺の雑木林でカブトムシを捕る、というのは意外と貴重な体験になりつつあるのかも、とふと思ったので、今年行った採集の様子を記録することにした。

情けないことに、今までの採集は父親に受動的について行っていただけだったので、経験年数のわりにわたしは素人同然の知識しかない。素人による能動的記憶の試みがこの日記である。

 

 

採集時の服装

やぶ蚊がすさまじいので長袖長ズボンにサンダルではない靴を履いて行く。蚊だけではなくダニやその他の虫の対策にもなる。虫よけスプレーをしてもカブトムシたちに逃げられることはないのでスプレーもしたほうがいい。それでも蚊は延々まとわりついてくる。わたしは虫がそれほど得意ではないので長袖長ズボンでないと草むらに入っていく気がしない。カブトムシは手づかみするので網は必要ない。

 

採集の時間帯

昼間はあまりいないことが多い。わたしたちは例年夜明け前から夜明け直後に行く。今年は朝5時に家を出た。ちなみに教授に連れて行ってもらったときは夕方だった。ただし、2019年にドライブがてら雑木林をのぞいた時には真昼間に何匹もいたので、そういうこともある。

2019年の真昼に見たカブトムシたち

 

カブトムシが集まる森林

カブトムシが集まる木といえば、クヌギやコナラなどの樹液が出る木の森や林である。特にクヌギは樹液の出が良いので虫が集まりやすいそうだ。樹液はカミキリムシが齧ることで出る。河原の柳もカミキリムシがよく齧るので樹液が出てカブトムシが来ることがあるらしい。今年は郊外の住宅地外れの雑木林と工業地帯の公園わきの雑木林に行った。狙いは主にクヌギだった。

住宅地外れの雑木林



カブトムシやクワガタの採集をやってきた人はみな口をそろえて「虫が捕れる森は樹液の匂いがする」と言う。今回わたしは初めて意識して匂いを嗅いだ。樹液はパンのようなすこし発酵したような甘い匂いがする。aikoの「カブトムシ」の歌詞の『甘い匂いに誘われたあたしはカブトムシ』に出てくる「甘い匂い」とは樹液の匂いのことかもしれない。いや、違うかな。樹液の匂いは蝶やスズメバチ等さまざまな虫を惹きつけるので、彼らが飛んでいる場所の近くには樹液が出ている木がある可能性がある。

クヌギやコナラ以外でカブトムシが集まる木として有名なものにシマトネリコがあるが、シマトネリコは甘い匂いのする樹液を出さない。そのため、シマトネリコはほかの虫を呼ばないそうだ。スズメバチが集まってくることがないので、小さな子どもと虫捕りに行く際にはシマトネリコが植えられているところがおすすめだと教授に教えてもらった。

ヒトの手が入っている森林がカブトムシ採集には向いている。木は大きすぎると樹液の出が悪くなるので、定期的に切って育てている林がいい。直径30cm 未満の木が良い印象。近年は木材や落ち葉を使わないので林の木が育ちすぎてしまったり、藪が深くなりすぎてしまったりして採集向きの場所が減っている。

腐葉土があるかはあまり気にしなくていいらしいが、いつも行く林の足元は大体土壌層が発達してふかふかしていた。

 

今年の戦績

小学生のころから通っていた雑木林では一匹のカブトムシも確認できなかった。樹液の匂いがして蝶が集まっている木が数本あったのでこの原因は不明である。農薬の影響なのかなぁ。新しい測量の後があり、何らかの建設計画がある可能性が高い。すでに道路を挟んで反対の林はソーラーパネル畑に変わってしまった。さみしいことだ。

2019年にカブトムシを確認した林では一匹しか見つけられなかった。父曰く、そもそも盆というのはシーズン遅れなのだそうだ。子ども時代は八月前半が全盛期で、後半はあまり採集しなかったという。とはいえ、2019 年にはそれなりにいたのにこれは少なすぎる、と言ったところ、今年の夏は早くから気温が高かったのが影響したのではないか、とのことだった。真相は不明。

 

自然のまま、とはどういう状態なのか

「自然」というのは森をただあるがままの状態にしておくことを指すと思っている人は結構多いと思う。しかし、実際には、今回の雑木林や里山のように木を刈ったり枝を取ったり、生態系の「維持」にヒトの手入れが組み込まれている場合がある。ゆえに、知識がないままイメージだけで環境保護について考えるのは非常に危うい。一方で、そのことを実感できる環境は減少し続けている。生物研究をやっている者として、ヒトの生活と自然環境の交わりについて勉強しなくてはいけないなと最近よく思う。いまの研究分野とはかけ離れているため、日頃から勉強するというのはなかなか難しいが、帰省時には意識的に勉強していきたい。

 

余談「腐葉土はあたたかい」

何年もカブトムシ捕りに参戦していたわりに、カブトムシの世話は動物好きの父に丸投げしていたのでどうやって世話をしていたのかまるで知らなかった。言い訳をすると、子ども時代のわたしのお目当てはカブトムシ捕りの後に買ってもらえるハーゲンダッツだったからである。眠い目をこすって藪蚊だらけの林を歩き回った後、早朝の清々しい日差しの中で食べるハーゲンダッツは絶品であり、虫そのものにはあまり興味がなかった。ハーゲンダッツ目当てに高校生になっても昆虫採集に着いていったのだから大した食い意地だ。

幼虫を育てるための腐葉土はどうやって確保していたのかをたずねると、腐葉土が積み重なっている場所に父が連れて行ってくれた。まだ夏の盛りなので掘っても幼虫は出てこなかった。掘った場所は触るとあたたかかった。父曰く、発酵によって熱が発生するらしい。冬でもあたたかく、カブトムシたちは腐葉土の天然ぬくぬくお布団で冬を越すらしい。この記事を書いているいまはちっともうらやましくないが、秋ごろからはきっとうらやましく思い出すのだろう。

腐葉土の中に手を入れるとあたたかい